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マーティン・スコセッシ監督の最新作『アビエイター』
300以上のカットでAdobe® After Effects®とPhotoshop®が活躍


「Dust to Glory」

Images copyright © 2004 Miramax Film Corp. and Initial Entertainment Group

通常のワークフローでは、VFXチームは撮影されたカットを受け取ってから仕事が始まりますが、今回Visual Effects Supervisorを務めたロブ・リガトーのVFXチームは撮影そのものから参加しました

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時代を代表する監督の1人として誰もが認めるマーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督。『ギャング・オブ・ニューヨーク』や『グッドフェローズ』といった硬派な作品で著名な彼は、俳優から迫真の演技を引き出す能力、高い技術を駆使した果敢なカメラワーク、そしてディテールに富んだ骨太なリアリズムを描く手法で知られています。ビジュアルエフェクトに積極的な監督ではありませんが、ストーリーテラーとして常に斬新で完璧なものを求めるスコセッシ監督は、自身のイメージを表現するために、新しいツール取り入れることに抵抗はありません。実在した大富豪、ハワード・ヒューズ(Howard Hughes)を主人公にした最新作『アビエイター』がその好例で、この映画では、VFXカットが実に400以上に上ります。


 

控えめな予算で驚くべきビジュアルエフェクトを実現

この大変な労力を要する作業の取りまとめ役としてスコセッシ監督が白羽の矢を立てたのは、オスカーの受賞経験もあるVisual Effects Supervisorのロブ・リガトー(Rob Legato)でした。リガトーはこれまでにも『タイタニック』、『アポロ13』、『ハリー・ポッターと賢者の石』などに参加しています。コストを抑えながらリアルなエフェクトを制作するためにリガトーが選んだのは、実物のように見せかけたミニチュア模型を使うといった従来のテクニック(ハワード・ヒューズ自身が映画『地獄の天使(Hell’s Angels)』の中で多用した手法)と、コンピュータグラフィックスを併用するという方法でした。しかし驚いたことに、『アビエイター』のビジュアルエフェクトは、その大部分がリガトーとEffects Editorのアダム・ゲステル(Adam Gerstel)、そして、フリーのビジュアルエフェクトアーティストで構成されたチームがAdobe After EffectsやAdobe Photoshopを使って制作したのです。

「これまでは、映画のビジュアルエフェクトといえば、Industrial Light & MagicかSony Imageworks、Rhythm & Hues、あるいはDigital Domainといった大手のスタジオで制作するのが当たり前でした」と、Visual Effects Producerのロン・エームス(Ron Ames)は語ります。「映画そのものには莫大な製作費がかかっていますが、ビジュアルエフェクトにはあまり予算が割かれていませんでした。にも関わらず、ハリウッドの他の作品以上の結果を求められたのです」

デスクトップでのビジュアルエフェクトを実践で習得

ビジュアルエフェクトのうち、複雑なコンピュータ処理が必要な70カットはImageworksと中堅の制作スタジオであるCafe FXが担当しましたが、それ以外の300以上のカットはリガトー、ゲステル、そしてDNA、Pixel Playground、Ockham’s Razor、Buzzなど、小規模なエフェクトプロダクションがMacintoshやWindowsベースのシステムで制作しました。大部分のVFXカットを大手のプロダクションに頼らず制作できたのは、リガトーの技術と創造力の証であると同時に、PCベースのイメージングツール、コンポジットツールが、パワーと柔軟性、使いやすさの点において、専用システムやUNIXベースのシステムに引けをとらないことを実証しています。「何が革新的かって、それは一人だけですべての作業ができることです」と、リガトーは語ります。「After Effectsが登場する以前にもエフェクトツールはありましたが、大手のプロダクションが使うような専用ソフトウェアだったので、使い方を習得するために多くの時間を割くことはできませんでした」

画像3点

Images copyright © 2004 Miramax Film Corp. and Initial Entertainment Group

リガトーとエームスは、Adobe After Effectsをプレビジュアライズ(エフェクトの事前確認)ツールとしても活用しています。最終的なシーケンスがどうなるかをスコセッシ監督が現場で確認できるので、コストがかかってしまうカットを効率的に撮影することができたのです

デスクトップでの作業は、リガトー本人が制作プロセス全体に関係しているので、どこをどうして欲しいとオペレータに言葉で説明し、イメージ通りのシーンに仕上げてくれるのをただ願うのではなく、自ら素材を処理して求めるイメージを完成まで持っていくことができます。監督から修正の指示があった場合も、プロセスを把握しているので、すぐに変更を加えることができます。

さらに、デスクトップ環境で作業を行ったことで、リガトーのチームは、この映画の制作で欠くことのできない役割を果たすことになった、とエームスは語ります。「通常のワークフローでは、後からエフェクトで処理をする余地を残すことを意識して、撮影を行うのが一般的なので、VFXチームが撮影自体に参加するということはありませんでした」

しかし、この映画ではプリプロダクションの段階から、Adobe After Effectsをプレビジュアライズ(エフェクトの事前確認)ツールとして活用していたので、最終的な仕上がりをスコセッシ監督と相談しつつ、通常よりも短時間でアクションシーンや模型の撮影を撮り終えることができたのです。リガトーは「After Effectsはまるで動く絵コンテだ」と評しています。

例えば、ハワード・ヒューズを演じるレオナルド・ディカプリオが、複葉機のコクピットから空中戦の指揮をとる場面では、その空中アクションを『地獄の天使』の場面に出てくる戦闘シーンとマッチさせる整合性が必要になりました。そこでリガトーとDigital Artistのオリバー・ホッツ(Oliver Hotz)は、デジタルビデオカメラとAfter Effects、Alias Mayaでプレビジュアライズし、どう撮影を進めればいいかを予めスタッフの間で共有することにしました。

Photoshopを使用したカラータイミング

『アビエイター』でのビジュアルエフェクトは華々しい空中スタントに目を奪われがちですが、実際には日常のシーンで数多く使用されています。例えば、スコセッシ監督は、舞台となる時代に製作された映画の色彩を『アビエイター』で再現することを求めました。そのため、時代設定が1927年から1937年のシーンではTechnicolor社の2色分解法(two-color dye transfer)で、1937年から1947年のシーンでは3色分解法(three-color dye transfer)によって、フィルムをエミュレートしています。

当時のテクニカラーの処理をデジタルで再現した、処理前と処理後の画像2点

Images copyright © 2004 Miramax Film Corp. and Initial Entertainment Group

ロブ・リガトーは、当時のTechnicolor社の色彩を再現するために、白黒のスチルをスキャンし、Adobe Photoshopでシアン、マゼンダ、イエローのフィルタを重ねていきながら、色彩を「プレビジュアライズ」しました

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ロブ・リガトーは当時のTechnicolor社の色彩表現をデジタルで再現するために、Technicolor社で最も古株のカラータイミングの専門家に相談しました。そして、まず白黒のスチルをスキャンし、Adobe Photoshopのデジタル処理でシアン、マゼンダ、イエローのフィルタを重ね合わせていくことで、色彩を「プレビジュアライズ」することに成功しました。「ソフトウェアには、その製品の開発者ですら思いつかない使われ方があります」と、リガトーは明かしてくれました。

スコセッシ監督が『アビエイター』の撮影に入った時点では、彼自身はビジュアルエフェクトの使用経験が豊富だったわけではないようですが、After EffectsやPhotoshopのプレビジュアライズを見せられているうちに使いどころが分かっていったようです。「ほんの少ししか経っていないのに、監督はここのドレスの色を変えてほしいとか、そこの影を消して欲しいとか、私たちにいろいろリクエストするようになっていましたよ」とリガトーは笑います。

After Effectsは、デジタルエフェクトの世界では世界中に広く普及しています。そのため、各プロダクションの制作部門と外部の委託業者との間で、コミュニケーションするときの「パイプライン」とも言うべき、一種の共通フォーマットとなっているといえます。リガトーは、「誰でもそれぞれ好んで使っているツールというのはありますが、After Effectsが便利なのは誰もが持っている業界標準ツールだという点です」と話しています。

映画制作の未来

PCベースのシステムで制作を進めるメリットは他にもあります。「ホテルの部屋にいてふと思いついたシーンでも、ノートブックでサッと創ることができます。そのままノートブックを試写室へ持って行ってプロジェクターにつなげれば、マーティ(マーティン・スコセッシ監督)にすぐに見てもらえます」と、その時の様子を振り返るリガトー。思いついたらすぐに行動に移せる、これもPCで制作をする利点といえるでしょう。

エームスは「われわれが『アビエイター』で実践して見せたように、これからのビジュアルエフェクト制作は、廉価なPCと一般的なアプリケーションソフトウェアで組まれたシステムに移行していくことになるでしょう」と確信を込めて語っています。「いずれは、カメラに装着する特殊レンズやフィルタのような道具と同じ扱いになるでしょうね」